大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)331号 判決 1985年7月30日

大阪市西区南堀江通6丁目45番地

(送達場所 大阪府柏原市玉手町4番75号 岩田敞方)

原告

丸善鋼材株式会社

右代表者清算人

岩田敞

東京都千代田区霞ケ関1丁目1番1号

被告

右代表者法務大臣

嶋崎均

右指定代理人

中本敏嗣

外3名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は,原告に対し,金361万4,131円及びこれに対する昭和55年10月3日から支払ずみに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は,鋼材卸売を業とする株式会社であって,現在清算中である。

2  訴外西税務署長は,原告に対し,

(一) 昭和39年3月30日付で青色申告承認の取消処分(以下「本件(一)の処分」という)を,

(二) 昭和39年3月31日付で,別表に記載のとおり昭和33年11月7日から昭和38年3月31日までの5事業年度の各法人税に関する更正決定等の処分及び源泉所得税の納付告知等の処分(以下「本件(二)の処分」という)を,それぞれ行なった(右(一)(二)を併わせて以下「本件各処分」という)。

3  訴外大阪国税局長は,昭和41年4月8日,原告に対する本件(二)の処分にかかる国税の滞納処分として,原告を滞納者,訴外加藤庄一(以下「訴外加藤」という)を第三債務者として,原告が右加藤に対して有する不当利得返還請求債権を差し押え,同月9日,差押通知書が訴外加藤に送達された。

そして,被告は,訴外加藤を相手方として,大阪地方裁判所に右差押に基づく取立訴訟を提起し(大阪地方裁判所昭和42年(ワ)第6264号差押債権取立請求事件),その控訴審の大阪高等裁判所において(大阪高等裁判所昭和49年(ネ)第703号,同第859号事件),昭和51年12月20日,「第一審被告(訴外加藤)は,第一審原告(本件の被告)に対し,金220万0,220円及びこれに対する昭和42年11月26日から右支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。」との判決が言渡され,右判決は,最高裁判所において(最高裁判所昭和52年(オ)第331号事件),昭和52年7月8日,上告棄却の判決が言渡されて確定した。なお,訴外加藤が右支払を命ぜられた金220万0,220円は,原告の訴外加藤に対する取戻請求権に基づくもので,その実質は,不当利得返還請求権に基づくものである。

4  訴外加藤は,昭和55年10月2日,右確定判決に従って,被告に対し,金220万0,220円とこれに対する昭和42年11月26日から昭和55年10月2日までの遅延損害金金141万3,911円,以上合計金361万4,131円を支払ったところ,被告は,右支払金全額を原告の本件(二)の処分に係る国税債権の一部に充当した。

5  しかし,以下に述べるとおり,本件(二)の処分は当然無効であって,右処分に係る国税債権は存在せず,被告が訴外加藤から支払を受けた前記金361万4,131円は,法律上の原因なくして不当に利得し,同額の損害を原告に被らせたものである。すなわち,

(一) 本件(二)の処分は,いずれも本件(一)の処分により発生しているところ,本件(一)の処分の理由は,「売上除外による架空借入金及び架空支払利息計上により,法人税法第25条8項3号(昭和40年法律第34号による改正前)に掲げる事実に該当」するためとされている。

ところで,青色申告書提出承認取消処分の通知書には,右の取消の該当条文を附記するのみでは足りず,取消の原因となった事実自体についても処分の相手方が具体的に知りうる程度に特定して摘示しなければならず,また,青色申告書提出承認取消処分における附記理由不備の瑕疵は,後日,再調査決定又は審査決定において処分の具体的根拠が示されたとしても,それにより治癒されるものではないというべきである(最高裁判所昭和49年4月25日判決・民集28巻3号405頁参照)。

しかるに,本件の青色申告承認取消書には,その理由として,前記のように「売上除外による」と抽象的に記載がされているのみで,いかなる売上が除外されているのか,その取引相手,取引年月日,品名,数量,金額,取引条件,決済内容等の具体的事実が示されていないから,原告において,その基因事実を具体的に知ることは困難であって,その処分につき裁量権の行使の適否を争う的確な手がかりが得られないのである。したがって右処分には,重大かつ明白な瑕疵がありうるというべきであるから,当然無効である。

(二) さらに,本件各処分は,原告の申告した借入金及び支払利息をいずれも架空のものであるとしてなされた処分であるところ,訴外西税務署長が架空とした借入金及び支払利息は,いずれも真実存在するものである。すなわち,原告は,その営業を始めた当初,資金が不足したので,訴外加藤庄一から,その貸主を,便宜,訴外森本周次及び訴外桝村信之名義として,合計金320万円を現実に借り受けたのであるから,右借入金及びこれに対する利息の支払は,真実存在するものであって,架空のものではない。なお,このことは,被告の訴外加藤に対する前記取立訟訴(大阪地方裁判所昭和42年(ワ)第6264号事件,大阪高等裁判所昭和49年(ネ)第703号,第859号事件),における各判決においても認められている。

原告は,右借入金及び支払利息は,真実存在することを再三主張したが,訴外西税務署長は,これを無視して,右借入金等を架空のものと認定した。

従って,訴外西税務署長のした本件各処分は,いずれも真実存在する原告の借入金及び支払利息を架空のものとしてなされたものであるから,重大かつ明白な瑕疵があり,当然無効である。

以上のように,訴外西税務署長のした本件各処分は,いずれも当然無効であって,別表記載の国税債権は存在しないから,被告は,訴外加藤から前記金員の支払を受けたことにより,法律上の原因なくして右金員を不当に利得したものである。

そして原告は,訴外加藤が,被告に対し,前記の金員を支払ったことにより,訴外加藤に対する右債権を失ったため,同額の損害を被った。

6  よって,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,金361万4,131円及びこれに対する被告が利得した日の翌日である昭和55年10月3日から右支払ずみまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4の事実は認める。但し,同8のうち訴外西税務署長が源泉所得税の納税告知処分をしたのは昭和39年4月30日付である。

2  同5の事実のうち,青色申告承認取消通知書に附記している売上除外による架空借入金につき,原告主張の取立訴訟において,架空借入金ではなく,真実の借入金であると判断されたことは認めるが,その余は否認する。

三  被告の主張

被告が,訴外加藤から,昭和55年10月2日,金361万4,131円の支払いを受けたのは,適法・有効に成立して不可争的なものとして確定した請求原因2(二)の法人税の更正決定処分及び源泉所得税の納付告知処分並びに請求原因3の差押債権の取立訴訟の確定判決に基づくものであって,決して法律上の原因なくして右支払いを受けたものではない。

さらに,仮に,被告が右金員を不当に利得しているとしても,右金員は訴外加藤に返還されるべきものであって,原告に返還されるべきものではない。

四  右被告の主張に対する原告の認否

右被告の主張は争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第1号証,同第2号証の1ないし5,同第3,4号証,同第5号証の1ないし3,同第6,7号証。

2  乙号各証の成立はいずれも認める。

二  被告

1  乙第1,2号証。

2  甲号各証の成立はいずれも認める。

理由

一  請求原因1ないし4の事実は,訴外西税務署長のした源泉所得税の納税告知処分の日付を除いては当事者間に争いがなく,右成立に争いのない乙第2号証によれば,右処分は,昭和39年4月30日付でなされたことが認められこれを覆すに足りる証拠はない。

二  そこで次に,被告が,訴外加藤の支払った合計金361万4,131円を法律上の原因なくして不当に利得したか否かについて判断する。

1  まず,原告は,訴外西税務署長のした原告に対する昭和33年11月7日から昭和38年3月31日までの5事業年度の各法人税に関する更正決定等の本件(二)の処分は,右同署長のした青色申告承認取消の本件(一)の処分から発生しているところ,右本件(一)の処分は,理由不備の違法があるから本件(二)の処分も,また重大かつ明白な瑕疵があって,当然無効であると主張している。しかし,原告主張の青色申告承認の取消処分に理由不備の違法があるからといって同処分が当然無効であるとは解し難いのみならず,ましてや,右取消処分の違法により,原告に対する法人税の更正処分が当然に無効になるものとは到底解し難い。よって,右の点に関する原告の主張は失当である。

2  次に,原告は,本件(二)の処分(法人税の更正決定等の処分)は,原告が,訴外加藤から,貸主を訴外森本周次及び桝村信之名義として借り受けた合計金320万円の借受金及びこれに対する支払利息を架空なものと認定した瑕疵(違法)があり,かつ,右瑕疵は,重大かつ明白なものであるから,本件(二)の処分は当然無効であると主張しているところ,行政処分に,重大かつ明白な瑕疵がある場合には,当該行政処分は当然無効というべきであるが,行政処分に重大な瑕疵があっても,それが明白でない限り,当該行政処分は,これが取消されるまでは有効なものというべきである。ところで,本件において,本件(二)の処分が,真実存在する原告の借受金を架空なものとして認定してなされた瑕疵のあるものであるとしても,そのことのみから,直ちに右処分の瑕疵が明白なものであったと認めることはできず,他に右瑕疵が明白であったことを認めるに足りる証拠はない。却って,原告は,本件(二)の処分につき,大阪国税局長にその取消を求めたが,右取消請求は,その後棄却されたことは前記のとおり当事者間に争いがないから,大阪国税局長も,原告主張の借受金は架空であると認定したものというべきであるし,また,成立に争いのない甲第5号証の1,2によれば,本件(二)の処分にかかる国税債権に基づく,原告主張の被告から訴外加藤に対する取立訴訟(大阪地方裁判所昭和42年(ワ)第6264号事件,大阪高等裁判所昭和49年(ネ)第703号,同第859号事件)の第一,二審判決において,いずれも,本件(二)の処分には,真実存在する原告の借受金を架空なものと認定した瑕疵(違法)があるが,その課税の経過に照らし,右瑕疵は,客観的に明白なものとはいえず,右処分は当然無効ではないと,判示されていることが認められるところ,これらの事実に・弁論の全趣旨に照らして考えれば,本件(二)の処分に,原告主張の瑕疵があるにしても,右瑕疵は明白なものではないと認めるのが相当である。

したがって,本件(二)の処分は,重大かつ明白な瑕疵があって当然無効であるとの原告の主張も失当である。

3  そうとすれば,本件(二)の処分は当然無効ではないというべく,また,右処分が,その後権限ある行政庁その他によって取消されたことについては何らの主張立証もないから,結局,右処分は有効に存続しているものというべきである。したがって,原告は,本件(二)の処分によって課税された別表に記載の法人税等を支払うべき義務があったものというべきであるから,本件(二)の処分にかかる国税に対する弁済として訴外加藤が被告に支払った金361万4,131円は,法律上の原因がなくして支払われたものではなく,却って,被告は,右金員の支払いを受ける権利があったもので,これを不当に利得したものではないというべきである。

三  よって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却し,訴訟費用について民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤勇 裁判官 村岡寛 裁判官大沼容之は,病気のため署名押印ができない。裁判長裁判官 後藤勇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例